トマト低段密植栽培における収穫予測の検討
- 収穫日・収量の計算モデル -
〇遠藤 隆也1),割澤 伸一2) ,鳥居 徹2) ,山本 哲也2) ,佐藤 達雄3) ,
齊藤 浩一4) , 江口 陽子5) ,新谷 義男6) ,上田 里絵6) ,山田 一郎2)
1) M-SAKUネットワークス,〒384-0613 長野県南佐久郡佐久穂町大字高野町1500-42
2) 東京大学大学院新領域創成科学研究科,〒277-8563 千葉県柏市柏の葉5-1-5
3) 茨城大学農学部,〒300-0393 茨城県稲敷郡阿見町中央3-21-1
4 )鈴与商事株式会社,〒424-0942 静岡県静岡市清水区入船町11番1号
5) 株式会社鈴与総合研究所,〒424-0944 静岡県静岡市清水区築地町11-26
6) NTTファシリティーズ,〒108-0023 東京都港区芝浦3-4-1 グランパークタワー
要旨
トマトの低段密植栽培(養液栽培)経営において必要となる環境データと収穫データ(収穫日,収量)の関係に関する計算モデルについて再考した.
収穫日予測に関しては,従来は主として環境データとして日平均温度の積算値である積算温度を用いていたが,本稿ではある期間の積算温度と積算日射量の相互相関がある計算モデルを検討した.
また,収量予測に関しては,ある期間の積算日射量と温度分布(温度ヒストグラム)を考慮した計算モデルなどを検討した.決定係数R2を用いて計算モデルを評価し,良好な結果を得た.
キーワード
トマト,低段密植栽培,収穫予測,計算モデル,日射量
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はじめに
農業の経営管理を行っていくためには,基本事項として,「いつ(何月何日に)播種すると,いつ(何月何日に)、何kgの収量が得られるか?」などについて、マクロに予測できることが必要となる.
そのために,経営管理に役立つための年間を通したマクロな収穫日予測,収量予測に関する計算モデルついて検討する.
実験の概要
トマト低段密植栽培の実証試験では,実験ハウスとして、2棟(各棟:111m×39m)を使用し、各棟を4区画に分割した合計8区画において,低段密植栽培/長段栽培,高糖度区画/高収量区画など,様々に条件を変えつつ通年栽培での最適な栽培方式の検討を行った.
なお,トマト種類としては桃太郎ヨークを用いた.
本稿の収穫日予測,収量予測に関しては,低段密植栽培として1段密植栽培(養液栽培)を行った結果を用いている.
収穫データ,環境データの概要
本計算モデルの検討では,1段密植栽培で,2014年4月~2015年4月に播種した11作の収穫データ(イベント月日,収量)を用いて行った.
環境データとしては,低段密植栽培・高収量区画の68箇所に,温度・湿度・CO2・光量子センサなどのセンサを設置し,5分ごとにセンサ情報を記録した.
本検討では温度センサと光量子センサのデータから,1日毎の平均日射量,平均温度,昼夜温度差などを算出して環境データとして使用した.
収穫日に関する計算モデル
従来は主として積算温度を用いていた収穫日計算(参考文献1:下記のMD1モデル)に,積算日射量を加えた以下のMD2~MD4モデルについても,回帰分析,重回帰分析を行い,決定係数R2で予測性能を評価した.
【収穫日Dに関する計算モデル】
・MD1: D1= f1(積算温度)= a1 + b1×T(日々の平均温度の積算値)
・MD2: D2= f2(積算日射量)= a2+ b2×P(日々の平均日射量の積算値)
・MD3: D3= f3(積算日射量&積算温度:説明変数に相関なし) = a3 + b3×T + c3×P
・MD4: D4= f4(積算日射量&積算温度:説明変数に相関あり) = a4 + b4×T + c4×P + d4×T×P
図1 収穫日計算モデルMD4の評価:開花日を起点にした積算日射量と積算温度による収穫最大日の予測結果
収量に関する計算モデル
従来は,夏季の高温期間を除いて,ある期間の積算日射量や平均温度を用いた方法が報告されている(参考文献2).
ここでは,積算日射量や平均温度に加えて,図2に示す平均温度の分布(温度ヒストグラム)なども加味した新たな計算モデル(従来は分析から除外されてきた夏季の高温期間にも適用できるモデル)を検討した.
【収量Yに関する計算モデル】
・MY1: Y1= g1(積算温度)=a1 + b1×T
・MY2: Y2= g2(積算日射量)= a2 + b2×P
・MY3: Y3= g3(積算日射量&積算温度:説明変数に相関なし) = a3 + b3×T + c3×P
・MY4: Y4= g4(積算日射量&積算温度:説明変数に相関あり) = a4 + b4×T + c4×P + d4×T×P
・MY5: Y5= h1(積算日射量&温度ヒストグラム)= a5 + b5×T +Σc5i×Hi
図2 MY5モデルで使用する温度ヒストグラムHiの例
収量の実測値(青色:左側)とMY5モデルによる計算値(橙色:右側)との比較結果を図3に示すが,決定係数R2は0.9以上となった.
おわりに
従来の収穫日並びに収量の計算モデルについて再考し, 収穫日予測に関しては,ある期間の積算温度と積算日射量の相互相関がある計算モデルを、収量予測に関しては,ある期間の積算日射量と温度ヒストグラムを考慮した計算モデルを検討して、良好な結果を得た.
今後は, より多くの収量データに対する予測性能の向上と気象予測データを加味した予測手法の検討が必要である.
謝辞
本報告は,東京大学,茨城大学,鈴与株式会社,鈴与商事株式会社,株式会社NTTファシリティーズ,西日本電信電話株式会社による共同研究「IT融合による統合型次世代農業システム」の研究成果によるものである.
実証試験のフィールドを提供いただくとともに,収穫データ,環境データの収集などに協力いただいた農業生産法人ベルファームの皆様に深謝する.
参考文献
1. 低段・多段組合せ栽培によるトマトの周年多収生産技術マニュアル、平成22年3月、SHP 関東地域農業研究・普及協議会、研究実施機関:神奈川県農業技術センター、千葉大学大学院園芸学研究科
2. Teruo WADA, Hideo IKEDA, Hiroaki HIRAI and Yoshifumi NISHIURA: Simulation Model for Predicting Fruit Yield of Tomatoes Grown on a Single-truss System under Shade in Summer, Environ. Control Biol., 51 (1), 11.16, 2013