jsai2013

農業現場へのHI総合デザイン活動の応用例(その3) 
その1
その2
その4

佐久穂げんでる農業:栽培管理センサーNWの試み

遠藤隆也(M-SAKUネットワークス)、小林守正(佐久穂町会議員、花農家)、

柳沢 豊・須山敬之・納谷 太(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)、

須田稔勝(佐久穂町役場産業振興課農政係)


M-SAKUネットワークス,〒384-0613 長野県南佐久郡佐久穂町大字高野町1500-42


要旨

 クラウド・コンピューティング環境を利活用した、元気の出る農業の支援活動:「佐久穂げんでる農業」の中で、これまでの映像知識ベースを用いてコミュニティで協調学習していくシステム開発に加えて、センサーネットワーク(NW)を用いた栽培管理支援活動の試みを始めた。その概要について述べる。

キーワード

農業コミュニティ、栽培管理、センサーネットワーク、Androidアプリ、映像知識ベース

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1. はじめに:佐久穂げんでる農業

 長野県の佐久穂町において、元気の出る農業をめざして、農業現場の活動に協働参加しながら、それに関与するコミュニティの知や関連する情報の生態を観察・調査し、ICT(情報通信技術)を活用して農業活動が新たな社会的・拡張的発達サイクルに深化していくための場を、コミュニティで共同で総合的にデザインしていく活動をすすめている(遠藤2011)・(遠藤ら2012) 。

 これまで、主として映像知識ベースを活用して、形式知と暗黙知からなる農業コミュニティの知を「見える化」し、共同で協調学習するシステムについて検討してきた。

 具体的には、トルコギキョウの栽培作業(苗床作り、播種、育苗、床作り、定植、生育初期、生育中期、生育後期、出荷)の場において、実際の作業に従事しながら、ハイビジョン映像で記録し、それらの映像を意味的にまとまりのあるシーンに分割し、映像シーン単位に知識を記述する、映像シーン連動掲示板システムを試作した。

 このシステムを含めて、コミュニティの知や関連する情報の生態を支援するために、クラウド・コンピューティング環境(Google Apps、など)を総合的に利活用した「佐久穂げんでる農業」システムを構築してきた(図1)。


図1 クラウド環境・映像知識ベースを活用した「佐久穂げんでる農業」のシステム構成と運用図


2. 農業現場における基本的課題(例):

 上述のシステムを構築していく中で、例えば、

・(冬期における)育苗時に苗床の温度を何度以上に保つべきとあり、温度コントロールしているが、花の発芽率が苗床の「場所」によって異なっているがなぜだろう?
・花の成長が、農業ハウスの中の「場所」によって異なっているケースがあるが、それはどうしてだろうか?

などの経験的に知られている均質化に関する基本的課題が見られた。そこで、苗床や農業ハウスの空間における温度、湿度、照度の時空間分布がどのようになっているのかについて、センサーNWを用いて測定してみる、栽培の環境モニタリング実験を試行することにした。

3. 現場で求められるセンサーNWの開発法:

 農業現場で、(経営革新に必要とされる)データを十分収集できるセンサNWを構築するためには、現場でのインタラクティブなシステム開発が求められる。すなわち、データを取る実験を繰り返すと同時に、どのようなデータの取り方をすれば目的の事象が観測できるのかということを、農家とシステム開発者とが議論を繰り返して進めるという設計プロセスが必要になる。この設計プロセスの過程では、最終的なシステムの効用がはっきりしないまま、データ取得実験を繰り返す必要がある。その過程では、システムが廉価であること、設置位置の変更等が容易であること、システムの拡張性の高さ、開発の容易さといった要件が求められる (柳沢ら2013)

4. センサーNW実験

 苗床とハウス内におけるセンサーNWの構成とAndroidアプリによるセンサーデータの可視化(例)を図2に示す。(なお、当初は、ハウス内におけるセンサーの配置場所、配置個数、測定頻度、必要な電池量などのパラメーターが分からずに、データ観測を繰り返しながら共同で検討を行い、5回にわたって配置変更やプログラムのアップデートを繰り返した。図2は、その試行錯誤の結果の構成を示したものである。)


図2 苗床とハウス内におけるセンサーNWの構成とAndroidアプリによるセンサーデータの可視化(例)

2の左側の写真中の赤丸印のところにセンサーノードを設置している。苗床のケースでは、苗床の左側に5ノード(各ノードに横方向に3つの水温センサーと1つの地温センサー)とハウス内の気温センサーノード、ハウス外のセンサーノードを設置した。

定植後のハウス内には、畝の中に9ヶ所(同一ヵ所に地上10cm 1.5mの位置に2ノードずつ)、ハウス内に1ヶ所、ハウス外に1ヶ所、合計20ノード(各ノードに温度、湿度、照度の3つのセンサー)を設置した。

センサーNWの構造としては、各々のノードからのセンサーデータを、Zigbeeで中継ノードに送受信し、そこからBluetoothでスマートフォンに集約・記録し、ある時間毎に定期的に遠隔地に置かれたサーバーに送っている。

無線通信にかかる消費電力,すなわち通信コストは,一般に送受信データ量に比例する。そこで本センサーNWでは、各センサーノードで観測されるデータ系列間に内在する相関性を利用した新しいデータ圧縮技術を使用し、各センサーノードの消費電力を低く抑えている。

また、本実験で用いる各ノードには仮想マシンが内蔵されており、センサーNWを介して、動的にプログラムを書き換えることができる(柳沢ら2011)

 図2の右側に示すように、サーバーに送信されたセンサーデータからなるBigDataの内容を、AndroidアプリであるSensorDataViewerにより、リアルタイム並びに指定した月日のデータとしてグラフ表示することができる。

5. むすび:今後の展開

 センサーNWを導入することで、これまで明確になっていなかった苗床やハウス内の空間における水温、地温、気温、湿度、照度などの時空間分布が見えるようになってきた。例えば「場所」によって異なっている花の発芽率、花の生育状況などに関する定性的な初期の知見(苗床におけるハウス外側に近い苗箱の水温・地温の低下、定植後のハウス内の場所による温度・照度の相当量の差異など)が得られつつある。(ただし、他の要因との要因分析には至っていない。)今後は、センサーNWデータと映像知識ベースを深化させつつ融合させた栽培管理システムの総合デザインを試行していく(図3)。

図3 センサーNWデータと映像知識ベースを融合した栽培管理システムの総合デザインに向けて

謝辞

 トルコギキョウの栽培に関してご教示頂いている、JA佐久浅間の原田さん、専門部会の皆さんに感謝致します。

引用文献

・遠藤隆也(2011):ICTを利活用した「佐久穂げんでる農業」の試み. 農業情報学会2011年大会、要旨集.
・遠藤隆也、小林守正、小島明、嶌田聡、古海淳、桜井孝典(2012):佐久穂げんでる農業:クラウド環境を活用した農業コミュニティ協調学習支援活動. 農業情報学会2012年大会、要旨集.
・柳沢 豊,須山敬之,寺田 努,塚本昌彦(2013):小型無線センサノード用仮想マシンCILIX の適用事例. 情報処理学会ユビキタスコンピューティングシステム研究会・第37回研究発表会
・柳沢 豊、岸野 泰恵、前川 卓也、須山 敬之(2011):相関のあるデータを観測する無線センサネットワークのためのデータ集約手法. 情報処理学会ユビキタスコンピューティングシステム研究会・第32回研究発表会
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受け付け,
2013/04/16 18:38
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2013/04/16 18:38