jsai2012 【農業情報学会2012】

農業現場へのHI総合デザイン活動の応用例(その2) 

その1
その3
その4
佐久穂げんでる農業:クラウド環境を活用した農業コミュニティ協調学習支援活動

匠コメント付き映像活用による暗黙知継承支援技法

佐久穂げんでる農業:クラウド環境を活用した
農業コミュニティ協調学習支援活動


遠藤隆也(M-SAKUネットワークス)、小林守正(佐久穂町会議員、花農家)、
小島明(NTTサイバースペース研究所)、嶌田聡(NTTサイバーソリューション研究所)、
古海淳(佐久穂町役場産業振興課農政係)、桜井孝典(NTT東日本・長野支店)

M-SAKUネットワークス,〒384-0613 長野県南佐久郡佐久穂町大字高野町1500-42

要旨:
 長野県の佐久穂町で、クラウド環境を利活用した、元気の出る農業の支援活動:「佐久穂げんでる農業」活動の一環として、トルコギキョウ栽培管理記録を1年間にわたりハイビジョン映像で撮影し、映像シーン連動掲示板システム(SceneKnowledge)を用いた農業コミュニティ協調学習支援活動をおこなったので、その概要をのべる。

キーワード:
 農業コミュニティ,情報生態,クラウド・コンピューティング,SECIモデル、協調学習

1. 佐久穂町における農業情報の生態:

 前回の報告(遠藤 2011) において得られた、この地の農業活動とその情報生態の地域歴史・文化的な構造を表すイメージを図1に示す。この地の農業情報の生態は、地域文化の口承活動、近所の先輩農家の体験活動、JA指導員活動、専門部会活動、都会の出版活動、県の試験所等の周知活動、無線放送、などから生み出される形式知と暗黙知からなる情報環境に囲まれ、本人自身の過去の体験活動、関連コミュニティの形式知と暗黙知を利活用している。具体的な現場作業を観察すると、農作業現場に埋め込まれた農業コミュニティの知の中で、年間計画やビジョン・目標などを頭に描きながら、現場での状況観察、操作や作業のインタラクションを行っている。(図1

図1 農業活動の情報生態:地域歴史・文化的な構造

2. 農業コミュニティの知の協調学習法:

 形式知と暗黙知からなる農業コミュニティの知を、共同で協調学習する方法に関しては、知識創造企業におけるSECIモデル(野中 1996)が参考となる。SECIモデルは、暗黙知と形式知の共同化、表出化、連結化、内面化の、4つのプロセスからなるスパイラルで表現されている。

 このモデルを、映像を活用して支援する方法として、映像シーン連動掲示板システム(SceneKnowledge)が開発されている(嶌田ら 2012)。同システムを利用して、農業コミュニティの知を、図2に示すようなプロセスで、スパイラルに協調学習していく方法を実験することとした。

図2  SECIモデル(野中ら 1996)の農業への利活用

3. 実験の概要、システムの構成と運用:

 今回の実験では、トルコギキョウの栽培管理(苗床作り、播種、育苗、床作り、定植、生育初期、生育中期、生育後期、出荷)の現場を、実際の作業に従事しながら、1年間にわたりハイビジョン映像で記録した(図3)。

図3 「佐久穂町トルコギキョウの栽培記録」の映像目次

 それらの映像を意味的にまとまりのあるシーンに分割し、映像シーン単位に掲示板を設置する、映像シーン連動掲示板システム(SceneKnowledge)を構成した。

 このシステムを含めて、農業活動の情報生態 (図1) に対応するために、クラウド・コンピューティング環境(Google Apps、など)を総合的に利活用した「佐久穂げんでる農業」システムを構築した(図4)。

図4 クラウド環境を利活用した「佐久穂げんでる農業」のシステム構成と運用図

4. SceneKnowledgを用いた協調学習支援活動

 SceneKnowledgeの画面例を図5図6に示す。右側の掲示板にはシーン毎のタイトルと概要や、コメントや質問が表示される。映像中に書込み、手書き描画もできる。 

 このような機能により、SECIモデルの4つのプロセス、
①共同化:映像シーン分割と公開による共有(視聴覚に訴える映像の表現力により、映像視聴して模倣や直感的な把握により技能内容を共有することができる)
②表出化:コメント付加と公開(映像シーン毎に掲示板を設け、映像中の各シーンに対して、有スキル者が映像に潜む知識を解説し、コツや技などを集約できる)
③連結化:議論(コメント返信)(映像シーンでコンテクストを共有したうえで利用者間でのQ&Aができ,解説コメントの登録や議論が行いやすくなる)
④内面化:シミュレーション(繰り返し視聴処理)(技能実践の準備として、行いたい技能に関する映像箇所を繰り返し視聴し、イメージ的にシミュレーションできる)
を実践することができ、農業コミュニティの協調学習支援をおこなう活動につながってきた。

 今後は、幅広い世代の利用につながっていくように努めていく予定である。

図5 SceneKnowledge を用いた栽培記録の映像シーンと各シーンにリンクされた掲示板の諸機能

図6 SceneKnowledge を用いた、映像シーン中への知識の書込み、注視点への手書き描画

謝辞
 トルコギキョウの栽培に関してご教示頂いている、JA佐久浅間の原田さん、専門部会の皆さんに感謝致します。

引用文献
遠藤隆也(2011):ICTを利活用した「佐久穂げんでる農業」の試み、農業情報学会2011年大会、要旨集.
嶌田聡、東正造、寺中晶郁、小島明、真嶋由貴恵、前川泰子(2012):映像シーン連動掲示板による技能伝承での知識共有と看護分野での評価、電気学会論文誌C, Vol.132, No.3.
野中郁次郎・竹内弘高・梅本勝博(1996):「知識創造企業」, 東洋経済新報社.

-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

匠コメント付き映像活用による暗黙知継承支援技法

佛田利弘 遠藤隆也

一般社団法人 日本食農連携機構,〒100-0011 東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテルタワー11階C-5

要旨:
 「農匠ナビ」研究プロジェクトの中で、「匠の技継承・人材育成手法の開発」研究を進めている。多くの匠の方々へのインタビュー・現地調査を実施・分析し、「匠の技継承・人材育成モデル」を構築し、匠の世界観を総合的に再構築していくための、匠コメント付きの多視点映像コンテンツを活用した「暗黙知継承支援技法」を検討した。

キーワード:
 農匠ナビ,匠の技,人材育成,多視点映像、暗黙知継承

1. 形式知の体系化、匠の技の動的構造モデル

 前回の報告(佛田・遠藤 2011)では、匠の技の「見える化」「形式知」(生産プロセス概要、作業詳細項目にノウハウ・注意点などを付加したもの)の体系化を図った。(図1

図1 匠の技のタスク主体の「形式知」集

 また、体験・経験の豊かな、篤農家の「匠の技」と言われているものは、単なる「形式知」では表現・構造化しきれない、いわゆる「暗黙知」を含むものであり、それは、ビジョン・動機などを駆動目標とし、経営レベル、技術レベル、作業レベル、個々の細かなタスクレベルからなる総合的な目的志向ダイナミック構造を持った、「匠の技の目的志向・動的構造モデル」として表現された。(図2

図2 匠の技の目的志向・動的構造モデル

2. 匠の技継承・人材育成のための学びの場

 知識創造組織における動態モデル(野中ら 2010のモデル)の考え方を応用して、前述のような動的構造をもつ、暗黙知を含む「匠の技」を継承し、次世代の「人材育成」をしていくためには、「形式知(生産プロセス概要、作業詳細項目、ノウハウ・注意点など)」に加えて、対話の場と実践の場からなる 動的な文脈の場、収集された「匠の映像ナレッジライブラリー」を総合的に活用した学びの環境場を構築していくことが必要である。(図3

図3  匠の技継承、人材育成のための学びの環境場
(背景図は野中郁次郎氏らの知識創造組織の動態モデルを引用)

3. 匠の技継承・人材育成モデル

 匠から学ぶ個人(新規就農者など)にとっての基本的な課題として、「何を聞いていいのかがわからない」ということを良く耳にした。

 この状況は、何のどこを見て、(「知覚」したものは何か)、知覚したものをどのように「解釈」し、「評価」すればいいのか、やりたいと思ったこと(「ゴール」と「意図」)から、実際に行ない得る身体動作(「行為系列」)のどの行為をするかを特定した後に、それを「実行」するという7段階の各段階で、「匠」の「身体/認知/精神活動」との視点・観点の相違が生じていること(遠藤 1995)に起因しているということを見いだした。

 このことから、単に、個々のタスクレベルのスキルを「まねる・学ぶ」ことから、自らの中に匠の世界観(総合的な目的志向ダイナミック構造)を総合的に再構築していくことへの転換が必要であるという、「匠の技継承・人材育成モデル」を構築した。(図4

図.4 「匠の技継承・人材育成モデル」

4. 匠コメント付きの多視点映像の活用

 継承していく者が、匠の世界観(総合的な目的志向ダイナミック構造)を総合的に自らの中に再構築していくためには、「再認」あるいは「再学習」レベルのいわば暗黙知の一部を、どのようにすれば形式知レベルに近づけて理解できるようになるか、ということがひとつのキーとなる。すなわち、「言われる、見せられる、あるいは示される」と分かる再認レベルの記憶を、暗黙知でなく形式知にプルアップする技法がキーとなる。

 このためには、「インタビューの映像ナレッジライブラリー」を学んだり、「匠」の「身体/認知/精神活動」との視点・観点の相違を意識化させるための表現技法(図5図6)や、「匠のコメント付きの多視点の映像コンテンツ」(図7)のように存在感・実在感・臨場感をもって見せる、アウェアネス(気づき)補完技法が必要となる。

 今後は、実現場での有効性検証を進めていく予定である。

図5 「匠の技継承・人材育成モデル」に対応させた、匠の意図、行為系列、実行との比較映像の例

図6 匠の意図、行為系列、実行などの図式化表現例

図7 上:ヘリコプターカメラ、GPS軌跡、固定カメラ、匠のアイカメラ、キャビン頭上カメラ、追尾カメラ
からなる6映像の同時提示。重要なポイントでは、下側の映像のように、匠のコメント付きの映像が拡大表示される。

謝辞
 本報告は,一部、農林水産省委託プロジェクト研究「農作業の軽労化に向けた農業自動化・アシストシステムの開発」による研究成果に基づく。ヒヤリングさせて頂いた、福原昭一氏、佛田孝治氏、藤瀬新策氏、八木輝治氏、奥村一則氏、ご教示頂き、貴重な映像をご提供して頂いている「農匠ナビ」研究プロジェクトの南石晃明教授(九州大学)、藤井吉隆氏(滋賀県農業技術振興センター)、映像コンテンツを試作して頂いているNTTコミュニケーション株式会社の関係者の皆様方に深く感謝します。

引用文献
遠藤隆也(1995):「リプリゼンテーションとインタフェース問題の基底:わかる認知科学から、わかりあえるマクロな認知工学に向けて」、認知科学Vol.2、No.1.
野中郁次郎、遠山亮子、平田透(2010):「流れを経営する;持続的イノベーション企業の動態理論」、東洋経済新報社
佛田利弘、遠藤隆也 (2011):匠の技の構造と動態モデル化の検討、農業情報学会2011年大会



ĉ
遠藤隆也,
2012/05/15 3:18
ĉ
遠藤隆也,
2012/05/15 3:17
ć
遠藤隆也,
2012/05/15 3:18
ć
遠藤隆也,
2012/05/15 3:18
Comments