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匠の技の構造と動態モデル化の検討

佛田利弘 遠藤隆也 

一般社団法人 日本食農連携機構,〒100-0011 東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテルタワー11C-5

要旨

 「農匠ナビ」研究プロジェクトの中で、「匠の技継承・人材育成手法の開発」研究を進めている。篤農家と言われている方々へのヒヤリング、現地での農作業観察などから得られた情報をもとに、「匠の技」と言われている「匠の体験・経験」の構造を推測し、匠の技継承・人材育成手法として利活用できるような動態モデル化を検討した。

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キーワード

農匠ナビ,匠の技,技の構造,人材育成,動態モデル

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1. はじめに

現在の農業の状況を考えたときに、今後数年で急速に失われていく可能性のある篤農家の有する「匠の技」(暗黙知)を抽出・構造化・可視化し、他の農業者や新規参入者等に継承し、人材を育成していく手法・仕組みを確立していくことは重要なことである。ここでは、まず、そのための基礎となる「匠の技、匠の体験・経験」の構造について推測し、匠の技継承・人材育成手法として利活用できるような「動態モデル化」について検討する。

2. 調査研究:情報収集の概要

当面、「稲作」を対象とし、以下の情報収集を行った。

①机上で、年間にわたる栽培計画、各月における標準的な農作業項目とその内容、各作業におけるノウハウ・注意点などについてとりまとめた。(図1に示すように、これらの検討プロセス自体を写真・映像にて見える化、図表化による形式知化を図った。)

②現地で、上記に対応した農作業項目の観察を行った。

③篤農家のヒヤリングを2箇所(滋賀、石川)で行った。

1 調査研究:情報の収集(机上での情報と現地観察)

3. 「匠の技、匠の体験・経験」の構造の推測

 篤農家へのヒヤリングには、図2に示すような、作業体系、作業項目、作業要素、作業内容、技術ポイント、経営ポイント、外部要因などからなる「構造化されたヒヤリングシート」を用いた。

 ヒヤリング結果は、マクロな経営レベルから、ミクロなタスクレベルの作業内容などに構造化・形式知化されるが、その背景には図3のイメージに示すように、暗黙知としての「ビジョン、動機、駆動目標」などが推測され、全体として目的論的ダイナミック構造が推察された。

2 構造化されたヒヤリングシート(部分イメージ例)

匠の技、体験・経験:目的論的ダイナミック構造

4. 動態モデル化の検討

 上記のような暗黙知を含む目的論的ダイナミック構造を有すると推察される「匠の技、体験・経験」を継承し人材育成手法として、すなわち後継者が自らの知識として再創造し実践の現場で利活用できるようにしていくためにはどのようにすべきかを以下に検討する。

 ここでは、そのひとつの方法論として、図4に示す知識創造組織における動態モデル(野中ら 2010)の考え方を応用してみる。この考え方では、知識は関係性の中で創られるとし、知識創造組織モデルのダイナミズムは、暗黙知(実践)と形式知(対話)のダイナミズム、駆動目標が生み出す矛盾解消のダイナミズム、場(共有された動的文脈)のダイナミズム、知識資産生成と利用のダイナミズム、企業と環境(知のエコシステム)との関係性のダイナミズム、にあるとされている。

4 知識創造組織の動態モデルの例(野中ら 2010

これらのダイナミズムは、暗黙知を含む目的論的ダイナミック構造を有すると推察される「匠の技、体験・経験」を継承し、後継者が自らの知識として再創造し実践の現場で利活用する場のダイナミズムと同じであるとみなすことができる。今回の調査で得られた暗黙知を内包している映像情報や形式知化された図表を貼りこんだ、匠の技継承・人材育成の場としての動態モデルを図5に示す。

5 匠の技継承・人材育成の場としての動態モデル化

また、これらをクラウド・コンピューティング環境を利用して、わかりあえるマクロな認知インタフェース(遠藤 1995)として提供した例を図6に示す。

6 「匠の話」映像+「現地作業」コメント付き映像+「作業体系」形式知化図表の綜合(シンセシス)リプリゼンテーションと相互利用のためのクラウド・コンピューティング環境でのマクロな認知インタフェース例

5. むすび:

今後、匠の技能に関する更なる情報収集のためのフィールド調査、収集した匠の技能を体系化し、人材育成・技術継承のためのコンテンツの試作、コンテンツの実フィールドにおける検証などを進めていく。

謝辞

 本報告は,一部、農林水産省委託プロジェクト研究「農作業の軽労化に向けた農業自動化・アシストシステムの開発」による研究成果に基づく。ヒヤリングさせて頂いた、福原昭一氏、佛田孝治氏、ご教示頂いている「農匠ナビ」研究プロジェクトの九州大学の南石晃明教授をはじめの関係者の皆様方に深く感謝いたします。

 

引用文献

遠藤隆也(1995):「リプリゼンテーションとインタフェース問題の基底: わかる認知科学から、わかりあえるマクロな認知工学に向けて」、認知科学Vol.2No.1

野中郁次郎、遠山亮子、平田透(2010):流れを経営する;持続的イノベーション企業の動態理論、東洋経済新報社


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Takaya Endo,
2011/05/10 15:37
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