jsai2011 【農業情報学会2011】

農業現場へのHI総合デザイン活動の応用例(その1)
その2
その3
その4

ICTを利活用した「佐久穂げんでる農業」の試み

遠藤 隆也 

M-SAKUネットワークス,〒384-0613 長野県南佐久郡佐久穂町大字高野町1500-42

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要旨

 「農民とともに」の健康管理活動で歴史ある長野県の佐久穂町で、クラウド・コンピューティング環境を利活用した、元気の出る農業の支援活動:「佐久穂げんでる農業」の試みを始めた。人々の活動(H)に参加しながら、それに関与する情報の生態(I)を観察し、コミュニティ活動が新たな社会的・拡張的発達サイクルに深化していくための環境場を、一緒に協調学習しながら総合的にデザインしていく、HI総合デザイン活動について述べる。

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キーワード

農業コミュニティ,活動,情報生態,クラウド・コンピューティング,総合デザイン

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1. はじめに:

 「農民とともに」の健康管理活動で歴史ある長野県の佐久穂町で、さまざまな地域活動のネットワーク支援(佐久総合病院・地域医療に関連した「メディカル佐久情報ネット(www.msakunet.info)」、佐久穂町の元気のでるネットワーク創りに関連した「佐久穂げんでるネット(www.sakuho.org)、北八ヶ岳・白駒池周辺の苔と森に関連した「北八ヶ岳苔の会(www.kitayatsu.net)」など)を行ってきた。この地の農業に関しては、2年前までは四季の農業風景変化を写真撮影する程度の係わりで、農家が農作物を生産し、私たちは生産された農作物を消費するという分業関係にあった。それに対して、消費者も農家の活動にお役にたてることはないか、ということで始めたHI総合デザイン(Human activityInformation ecologyGround Design)活動の概要について報告する。

2. HI総合デザイン活動とは:

HI総合デザイン活動とは、人々の現場の活動(Human activity)に参加しながら、それに関与する情報の生態(Information ecology)を観察・調査し、人々の活動が新たな社会的・拡張的発達サイクルに深化していくための環境場を一緒に総合的にデザインしていく活動をいう。

3. 農業活動とこの地の農業情報の生態:

この地における具体的な農業活動とそれに関連した情報を学ぶために、複数の農家の方々(稲作、花、果樹など)、関係する方々の様々な活動に参加・観察させて頂いた。その学びから得られた、この地の農業活動とその情報生態の地域歴史・文化的な構造を示すイメージ図を図1に示す。この地の地域歴史文化口承活動、近所の先輩農家の体験活動、JA指導員活動、専門部会活動、都会の出版活動、県の試験所等の周知活動、無線放送、メディア活動などから生み出される暗黙知と形式知からなる環境に囲まれ、本人自身の歴史的過去の体験活動、インターネット情報収集活動からなる暗黙知と形式知を利活用しながら、実際の本人のその場での農業活動では、農作業現場に埋め込まれた社会分散認知環境の中で、年間計画やビジョン・目標などを頭に描きながら、現場でのインタラクション・作業を行っている様子が観察された。

1 農業活動の情報生態:地域歴史・文化的な構造

4. 環境場のHI総合デザイン:

上述の農業活動の情報生態を考慮しつつ、クラウド・コンピューティング環境(Google AppsYouTubePicasamind42、農業情報ネットなど)を利活用した「佐久穂げんでる農業」のシステム構成・運用図を、図2に示す。
2 クラウド・コンピューティング環境を利活用した「佐久穂げんでる農業」のシステム構成・運用図

この中では、現場農作業や育苗管理説明情報の映像化・ディジタル化、映像の時間軸に沿った知識やコメントの付与(図3)、教科書的知識情報のマインドマップによる形式知表現などが、佐久穂げんでるネットの中で、総合的に表象されたマクロな認知インタフェース(遠藤 1995)で見られるようになっている。

3 映像の時間軸に沿った知識やコメントの付与

5. むすび:今後の展開に向けて

 これまでの、活動からの学びと新たな拡張的発達サイクルに向けてのイメージを図4に示す。これまでの農家は生産し、消費者は消費するとの分業から、消費者が農業活動のICTによる見える化、農産物の共創支援活動に参加することで、与え手、受け手の協業へと進み、それが新たな社会的・拡張的発達サイクルに向けての可能性につながる動きが見受けられるようになってきている。

4  活動からの学びと新たな拡張的発達サイクル

しかしながら、これまでの試みは、未だ情報の「見える化」と「共同利用」のレベルにとどまっている。人々の活動が、コミュニティ活動としても、新たな社会的・拡張的発達サイクルに深化していくためには、「コミュニティ支援」や「協調学習支援」の機能が必要になってくる。

 現在、図5に示す「シーン・ナレッジ」(東ら 2008)を利用して、「コミュニティ支援」、「協調学習支援」を行っていくシステムの共同実験、並びに「光iフレーム」の利用実験を始めている。(詳細は別途報告予定である。)

5 シーン・ナレッジ(東ら 2008)を利用した「コミュニティ支援」「協調学習」の試み

謝辞

 日頃、農業についてご教示・ご示唆頂いている井出貞良さん、小林守正さんご夫妻、高見澤良平さん、JA佐久浅間の原田さん・トルコギキョウ専門部会のみなさん、萩原紀行さんご夫妻、在賀耕平さんご夫妻、八千穂有機農業研究会のみなさん、中辻佳和シェフ、佐久総合病院健康管理部の前島文夫さん、国立科学博物館植物研究部の樋口正信さん、サカタのタネの山田祐介さん、佐久穂町産業振興課の相馬信治氏、佐々木勝氏、古海勝氏、アンテナ佐久穂の力武文雄氏、町の若者の「いいずら研究会」のみなさん、そして情報通信技術についてご教示・ご支援頂いているNTTサイバーソリューション研究所の加藤洋一氏、小島明氏、NTT長野支店の立花研司氏、窪田和樹氏、桜井孝典氏、青木幸雄氏に深く感謝致します。

引用文献

遠藤隆也(1995):「リプリゼンテーションとインタフェース問題の基底: わかる認知科学から、わかりあえるマクロな認知工学に向けて」、認知科学Vol.2No.1.

東正造、寺中晶郁、嶌田聡、小島明(2008):「映像中のナレッジ発見・共有を想定したシステムの開発」、電子情報通信学会、信学技法 ME2008-156, 2008-09-26

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匠の技の構造と動態モデル化の検討

佛田利弘 遠藤隆也 

一般社団法人 日本食農連携機構,〒100-0011 東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテルタワー11C-5

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要旨

 「農匠ナビ」研究プロジェクトの中で、「匠の技継承・人材育成手法の開発」研究を進めている。篤農家と言われている方々へのヒヤリング、現地での農作業観察などから得られた情報をもとに、「匠の技」と言われている「匠の体験・経験」の構造を推測し、匠の技継承・人材育成手法として利活用できるような動態モデル化を検討した。

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キーワード

農匠ナビ,匠の技,技の構造,人材育成,動態モデル

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1. はじめに

現在の農業の状況を考えたときに、今後数年で急速に失われていく可能性のある篤農家の有する「匠の技」(暗黙知)を抽出・構造化・可視化し、他の農業者や新規参入者等に継承し、人材を育成していく手法・仕組みを確立していくことは重要なことである。ここでは、まず、そのための基礎となる「匠の技、匠の体験・経験」の構造について推測し、匠の技継承・人材育成手法として利活用できるような「動態モデル化」について検討する。

2. 調査研究:情報収集の概要

当面、「稲作」を対象とし、以下の情報収集を行った。

①机上で、年間にわたる栽培計画、各月における標準的な農作業項目とその内容、各作業におけるノウハウ・注意点などについてとりまとめた。(図1に示すように、これらの検討プロセス自体を写真・映像にて見える化、図表化による形式知化を図った。)

②現地で、上記に対応した農作業項目の観察を行った。

③篤農家のヒヤリングを2箇所(滋賀、石川)で行った。

1 調査研究:情報の収集(机上での情報と現地観察)

3. 「匠の技、匠の体験・経験」の構造の推測

 篤農家へのヒヤリングには、図2に示すような、作業体系、作業項目、作業要素、作業内容、技術ポイント、経営ポイント、外部要因などからなる「構造化されたヒヤリングシート」を用いた。

 ヒヤリング結果は、マクロな経営レベルから、ミクロなタスクレベルの作業内容などに構造化・形式知化されるが、その背景には図3のイメージに示すように、暗黙知としての「ビジョン、動機、駆動目標」などが推測され、全体として目的論的ダイナミック構造が推察された。

2 構造化されたヒヤリングシート(部分イメージ例)

3 匠の技、体験・経験:目的論的ダイナミック構造

4. 動態モデル化の検討

 上記のような暗黙知を含む目的論的ダイナミック構造を有すると推察される「匠の技、体験・経験」を継承し人材育成手法として、すなわち後継者が自らの知識として再創造し実践の現場で利活用できるようにしていくためにはどのようにすべきかを以下に検討する。

 ここでは、そのひとつの方法論として、図4に示す知識創造組織における動態モデル(野中ら 2010)の考え方を応用してみる。この考え方では、知識は関係性の中で創られるとし、知識創造組織モデルのダイナミズムは、暗黙知(実践)と形式知(対話)のダイナミズム、駆動目標が生み出す矛盾解消のダイナミズム、場(共有された動的文脈)のダイナミズム、知識資産生成と利用のダイナミズム、企業と環境(知のエコシステム)との関係性のダイナミズム、にあるとされている。

4 知識創造組織の動態モデルの例(野中ら 2010

これらのダイナミズムは、暗黙知を含む目的論的ダイナミック構造を有すると推察される「匠の技、体験・経験」を継承し、後継者が自らの知識として再創造し実践の現場で利活用する場のダイナミズムと同じであるとみなすことができる。今回の調査で得られた暗黙知を内包している映像情報や形式知化された図表を貼りこんだ、匠の技継承・人材育成の場としての動態モデルを図5に示す。

5 匠の技継承・人材育成の場としての動態モデル化

また、これらをクラウド・コンピューティング環境を利用して、わかりあえるマクロな認知インタフェース(遠藤 1995)として提供した例を図6に示す。

6 「匠の話」映像+「現地作業」コメント付き映像+「作業体系」形式知化図表の綜合(シンセシス)リプリゼンテーションと相互利用のためのクラウド・コンピューティング環境でのマクロな認知インタフェース例

5. むすび:

今後、匠の技能に関する更なる情報収集のためのフィールド調査、収集した匠の技能を体系化し、人材育成・技術継承のためのコンテンツの試作、コンテンツの実フィールドにおける検証などを進めていく。

謝辞

 本報告は,一部、農林水産省委託プロジェクト研究「農作業の軽労化に向けた農業自動化・アシストシステムの開発」による研究成果に基づく。ヒヤリングさせて頂いた、福原昭一氏、佛田孝治氏、ご教示頂いている「農匠ナビ」研究プロジェクトの九州大学の南石晃明教授をはじめの関係者の皆様方に深く感謝いたします。

 

引用文献

遠藤隆也(1995):「リプリゼンテーションとインタフェース問題の基底: わかる認知科学から、わかりあえるマクロな認知工学に向けて」、認知科学Vol.2No.1

野中郁次郎、遠山亮子、平田透(2010):流れを経営する;持続的イノベーション企業の動態理論、東洋経済新報社


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Takaya Endo,
2011/04/24 22:51
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Takaya Endo,
2011/04/24 22:51